おきらくん漫遊記 電動士さんの実家にやって来た

 

兄より解説
 
今回の「おきらくん漫遊記」は「おきらくん」自身の日記となっております。
何の話かわからない人は、こちらをご覧になって予習してください・・・。

2002.12.08

車の運転を覚え、電動士家の工作室の生活にも慣れてきた日曜日の午後。
電動士さん、どこかに出かけるのでしょうか?家の中を動き回っています。そして工作室にやってくると、僕が乗って来たダンボール箱にフィギュアの野崎さんと守田さんに乗り込むよう指示を出した後、メタルチョロQさんを詰め込み始めたのです。

「電動士さん、お出かけですか?」

お留守番のつもりでたずねると、

「うん、出かける。どこへ行くかは秘密だよ。だっておきらくんも一緒なんだから。さ、箱の中に入って」

にっこり笑って答えるではありませんか。

ええっ!僕も一緒に??
そ、そんな急にいわれても……。
わけが分からず立ち尽くしていると、電動士さん、僕らの入ったダンボール箱のふたを閉め、小脇に抱えて工作室を出た。と思ったら、すぐさま階段を降り、玄関へ。

「じゃ、行ってくる」

見送りに出た奥様に声をかけると車に乗り込み、僕たちの入った箱を助手席へ。本当にどこかへ出かけるようです。

「あのう……僕たち、どこへ行くんでしょう?」
おずおずとたずねると、

「ああ、『例の場所』ですよ」

野崎さんが落ち着いた表情で答えます。

「野崎さんはいつから行ってませんか?」

野崎さん同様、場所がわかっているらしい守田さんの問いに、

「まだ、あなたができていないころです。一応、形にはなっていたが、顔色はついていなかった。あの時は電動士さんのシャツの胸ポケットに入って行きましたっけ」

「わたしはつい最近。完成してからです。チョロQさんを運んできた封筒に、チョロQさんと一緒に入っていったの。でも私、あの時が初めて。チョロQさんも、あの時が初めてだったのよね」

守田さん、僕に背を向けたまま答えます。出来心でつい、お尻を触ってしまったこと、まだ、怒っているようです。
そんな様子を知ってかしらずか、チョロQさんは黙ったままです。と、いうよりも、3つのパーツに分かれたままなので返事のしようがないみたいだ。

そうこうしているうちに、車は電動士さん宅を出発。『例の場所』へ向かうようです。
それからどれくらいたったのか。いくつかの橋を越え、たくさんの信号を渡る気配を感じながらボーっとしていた矢先(後で聞いたらだいたい20分ぐらいだったんだって)、

「ようやく着いたようですな」

野崎さんの言葉に思わずドキッ。ほどなく電動士さんは車を降り、とある家の車庫のシャッターを開けたあと、再び車に乗り込み、バックを始めました。

すると、

「お帰り」

シャッターの音を聞きつけた男の人が車庫の前でお出迎え。

「誰かしら?」
「ああ、お父さんですね。」

そうか……守田さんが来た時は、お父さん、ちょうど旅行に出かけていなかったんですね」
え?お父さん?
と、いうことは……ここは、もしかすると…………。
なんてことを考えているうち、電動士さんはお父さんのお出迎えを受けつつ車から降り、僕たちが入った箱といくつかの荷物を脇にかかえ、

「ただいまぁ〜」

明るい声で家の中へ。

「お帰り」
「お帰りなさ〜い!」

家の奥の方から響く2人の女性の声に導かれるように長い廊下を歩いてとある部屋へ。すると、

「チョロQ3個、買ってきた。あと、食玩の戦闘機も6個、買っておいたから」

一人の女性が電動士さんに話しかけている。

「おっ、サンキュー。ふ―ん……これがそうなんだ。あれっ、戦闘機の方は選べないのか?番号がついているかと思ったけど」

電動士さん、明るい声で答えた後、僕たちを入れた箱をそばに置き、早速スーパーの袋に入った品物を取り出し始めた。

「あはは、早速ホームページに関する打ち合わせですかな。どうやら目的のものを"あの方"から買ってもらったらしい」
「あの方?」
「そう、"あの方"。おきらくんが
『せっかく電動士さんのところに来たんだもん。一度でいいから会ってみたいなあ〜』
って、前に話してくれた……」

え?……ええっ!も、もしかして、その人は、その人は……。
と、思った瞬間、

「これが例の」

電動士さん、僕らの入ったダンボールをそっと女の人に差し出した。
すると、すぐさまダンボールの箱が開き、

「ああっ、おきらくん!本当に来たんだ!!」

にっこり微笑む女の人が。

「おきらくん、初めまして。妹です。ようこそわが家へ!」

妹さん、箱をコタツの上にそっと置くと、真っ先に僕をダンボールから抱えてコタツの上に立たせたあと、改めて僕にご挨拶。

「はっ、初めまして」

緊張しながら答えると、

「おきらくんがお兄ちゃんの家に来ているって話はホームページの掲示板を通じて聞いていたんだけど、まさかウチにまで来るなんて。
いや〜、
『もじよげれば、づれでぎでぐれ〜〜〜!!!』
って、お兄ちゃんのホームページの掲示板に書いておいてよかったぁ〜」

妹さん、明るい声で僕に説明してくれた。
なるほど、そういうことだったのか。
だから電動士さん、僕をびっくりさせようとして行き先を言わなかったんだね。

「あ、そうだ。これはさかもっちゃんからの伝言なんだけど、おきらくんの体にメグさんと妹のサインをしてほしいんだって」

妹さんが買ってきたチョロQを見つつ電動士さんがつぶやくと、

「じゃ、電話してみる」

妹さん、早速食器棚の横に設置してある電話でメグさんの家にかけたんだけど、メグさん、あいにく用事があって今日は来られないとか。
すると電動さん、

「今日でなくていいよ。一週間、置いていくから」

ええっ!僕、一週間いてもいいの?妹さんの家に。ワオ!!!

それを聞いたメグさんも大喜び。
『都合のいい日にルナを連れて遊びに行きます』
って、妹さんに伝えたあと電話を切った。

「そろそろお茶にしていい?」

一区切りついたのを見たお母さんが電動士さんに声をかけると、

「いいねえ〜」

久しぶりに1人でやってきたこともあってか、いつもよりのんびりしていた(って、後から妹さんが言ってた。普段は一家総出で遊びに来るからすんごくにぎやかなんだって)電動士さんが答えると、お母さん、早速ウーロン茶と、お父さんに頼まれて妹さんが新潟で買ってきたというドーナツをコタツの上へ。それからしばらく、電動士一家4人と僕らのおしゃべりタイム(この最中、僕、お母さんの手のひらに乗せてもらった)になったんだけど、やっぱり話題の中心はホームページのこと。
おまけに妹さんが午前中に新潟のダイエーで買ってきたというキットカットのロゴが入ったチョロQがあったものだから、

「この車(チョロQ)と、この金属の車はどう違うんだ?」

お父さんの問いかけがきっかけになり、後半はチョロQに関する話題へ。

電動士さん、メタルチョロQさんが送られてきた経緯と、製作者のチューゾーさんに関する説明をしたあと、

「小さいドライバー、ある?」

お父さんにたずねたものだから、お父さん、いったん部屋を離れ、玄関そばにあるという工作室からドライバーを持参。
すると電動士さん、お父さんからドライバーを受け取ると、妹さんが買ってきたキットカットのロゴが入ったチョロQの1つのパッケージを開け、中に入っていたチョロQを取り出した。そして底についていたネジをはずし、あっという間に分解。

「こういう作りになっているんだ」

3つに分かれたままのメタルチョロQさんと同じ状態のパーツを並べてお父さんに説明開始。そしてお父さんが納得すると、あっという間に分解したチョロQを復活。これで終わりかな……と思ったら、

「あ、これもきちんと組み立てられるようになっているんだ」

引き続き、3つに分かれていたチョロQさんも組み立て開始。

「あれっ、(ホームページの)トップ画像ではきちんと組みあがっていたじゃない」

妹さんの問いに、

「いや、あれはただ乗せただけ。きちんと組み立てられるなんて思っていなかったんだ。なるほど……この部品をはずせばきちんと組み立てられるんだ。いや〜、そこまで気がつかなかったよ」

電動士さん、お父さんに説明していたときの真剣な顔はどこへやら。ニコニコ顔で答えたあと、慎重にメタルチョロQさんの組み立て完了。

「よし、これで走るかな……。あ、やっぱり。金属だから重くてうまく走れないんだ。でも、よくできているなあ〜」

組み立てホヤホヤのメタルチョロQさんを、コタツの上で走らせた。

なんてことをしているうち、時刻はあっという間に午後3時半。

「じゃ、そろそろ帰るわ。おきらくん、1週間ほど置いていくから、十分楽しんでね」

電動士さん、妹さんにこう告げて帰って行った。
ほ……本当に1週間、妹さんの家にお邪魔できるんだ。
うわあ、これは予想していなかったよう〜。ご主人様が聞いたらなんというか…………。
なんてことを考えていたところ、見送りから帰ってきたお父さん、

「なに、これがおきらくん?ふーむ……」

いきなりコタツの上にいた僕を抱えあげたものだから、僕、びっくりして左側の足を落下。

「あれ、どうしたんだ?これ、どうやってはめるんだ?」

お父さんを驚かせてしまいました。

それからほどなく、ぼくたちは見送りから帰ってきた妹さんの案内で、コタツから全員、箱の中へ。

「みなさん、びっくりしたでしょ。今日はそのままゆっくりお休みください。明日、改めてお話しましょう」

妹さん、こう告げるとダンボールの箱を閉じ、宿泊先という、居間の隅にある五月人形のケースの上へそっとおいてくださいました。
ああ……びっくりした。
でも、どんな1週間になるのかな。
ぼんやり考えていると、

「やれやれ、これでようやく一人前になった……」

電動士さんの手によりきちんと組みあがったチョロQさんが、点検をするかのように小さく呟いたあと、安心したのか大きな伸びをしました。